新型コロナウイルス感染症~オミクロン株について

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新型コロナウイルス感染症において、現在はほぼ、オミクロン株に置き換わってしまったと思われますが、このオミクロン株によりたった3週間程度で一日当たり感染者が5万人を超えてしまいました。

10月から12月末までは一日当たり感染者数が500人未満で推移していたのが、たった3週間で100倍の感染者数です。

但し、実際の感染者はその数倍存在している可能性も十分にあります(発熱外来が空いておらず受診できない、ごく軽症であり受診の必要性を感じていないなどの理由)

 

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さて、何でこんなに急速に感染者が増加してしまったのか?

現状の問題点は何なのか?

今後どうしたら良いのか?

私見も交えながらお話ししたいと思います。

(尚、様々なデータを参考としてお話ししますが、データの画像添付するとすごく長くなるので、敢えて省略します)

 

1)オミクロン株の強力な感染性

①世代時間の短さ

たった3週間で100倍もの感染者数に達するオミクロン株ですが、その原因の一つとして

「世代時間」が短縮していることが挙げられます。

感染した人が別の人に感染させるまでの時間を「世代時間」と言いますが、デルタ株は4.6日と推計されているのに対し、オミクロン株は2.1日に短くなっているとされています(厚労省専門家会議資料を参照としました)

②ワクチンの発症予防効果の低さ

デルタ株であれば、2回接種後4か月でも70%程度の発症予防効果とされていますが、オミクロン株の場合、20%未満となってしまいます。mRNAワクチンは起源となった株のスパイクタンパク質を抗原とし、体内に免疫を作る仕組みですが、オミクロン株はスパイク領域に30か所程度もの変異があるので、効果が低下します。

③軽症者の多さ

オミクロン株により新型コロナウイルス感染症を発症した方、更にワクチン2回接種済の方の殆どが、本当に軽い症状(微熱、咽頭痛、鼻炎)などの方が多い印象です。しかも数日で快復傾向となる。症状としてはいわゆる「風邪」です。

なので、発症後もいわゆる「風邪」と思い、まさか新型コロナウイルス感染症と思わずに元気に社会活動を営まれる方は多いと推測されます。

(本来は風邪は殆どがウイルス感染症が原因であり、風邪症状が出現した際には感染予防対策を速やかに強化することがベストなのですが、新型コロナウイルス感染症流行前は風邪症状があっても普通に社会生活を営んでおり、なかなか行動様式は変えられるものではありません)

④上気道症状主体の症状であることが多い

デルタ株流行期には、症状として発熱・咳などが主体、喉や鼻の症状は乏しく、いわゆる下気道(気管より奥)症状が主な患者さんが多かったのですが、オミクロン株感染者は殆どが咽頭痛・鼻炎など上気道症状で発症しています。上気道のほうが口腔に近いため、排菌量が多くなる可能性があるのかなとも思います。

 

…上記をまとめると、オミクロン株の特徴として

・感染成立後ウイルス増殖が速い

・ウイルス保有量が多くても軽症であることが多い

・上気道感染のためウイルスを排出しやすい?

・ワクチン効果が乏しい

などが複合的に絡み合い、異常な感染拡大につながっていると考えられます。

 

2)現状の問題点

①診療上の問題点

当院では今までと同様に、

・できるだけ感染者を早期に同定し、速やかな隔離に繋げ感染拡大予防を目指す

・すべての感染症新型コロナウイルス感染が原因である可能性を考え、診療前から徹底的なゾーニング(感染者と非感染者の動線分離)を行う

・抗ウイルス薬が存在しない現在(正確にはハイリスク患者以外に抗ウイルス薬が使用できない)でも、できるだけ症状の緩和を目指し投薬する

・経過中に新たな症状の出現、その他様々な心配なことが生じた際に適切にフォローアップする

ことを原則として考えたいのですが、喫緊の課題は

「検査キット(抗原・PCR)」が近日中に枯渇しそう

なことです。大問題です。

新型コロナウイルス流行前、毎年のようにインフルエンザウイルス感染症が流行していた際には、ピーク時に約200万人がインフルエンザウイルス感染症に罹患し、その方々の大半は検査を受けていたはずです。

現状は週30万人程度、国内の抗原キット産生能力は十分残っているはずだし、オミクロン株流行の海外の状況を見たうえで、検査キット増産など、事前に手は打てたはずです。

また、新型コロナウイルス感染症に罹患すると、現状では隔離期間中は保健所が健康観察をすることとなっており、受診するにも保健所の調整が必要です。しかし保健所の業務能力にも限界があり、この制度により第5波のピークのときにも重症者の受診遅れに繋がってしまったのですが、そこから第6波を見据えた対策をすることなく、第6波に突入してしまいました。政府はこのままゼロコロナの世界が達成できると妄想していたのでしょうか?あまり政治的なことは述べたくありませんが、正直、無能だと思います。

 

②社会活動の問題点

オミクロン株の特徴として、若年者(学生)から家族へ伝播し、一家で2週間程度身動きがとれなくなる、というケースが多発しています。なぜかデルタ株までは20歳未満の感染者は成人と比較して少なめだったのですが、オミクロン株はインフルエンザウイルスと同様、若年者から社会へ広がりを見せています。

更に、3週間で100倍の感染数となっているため、隔離対象者は既に数百万人に達していると思われ、様々な業種で活動の停滞、破綻が生じつつあります。

 

…以上をまとめると、

・現状の政策のままだと、近日中に検査をすべての疑い患者に実施することが困難となり、正確な感染者数が把握できなくなる

・感染者を把握しきれないことから、適切な隔離が困難となり、感染拡大に拍車をかける

・ますます社会活動が停滞・破綻する

という悪循環しか見えないということです。

なお、海外や国内の一部で感染者がピークアウトしているともいわれていますが、これ、実は検査が十分できておらず正確な感染者が把握できていないのでは、とも考えています(私見

 

3)今後どうしたら良いのか?

オミクロン株はワクチンの有効性の低さ(3回接種でオミクロン株でも70%程度の発症予防効果まで回復しますが、1か月で50%程度まで低下するため感染予防をワクチンに期待するのは難しいでしょう)が問題で、ワクチン3回目接種の早期実施だけでなく、月単位のロックダウンをしないとゼロコロナは目指せないでしょう。非現実的です。

幸い、オミクロン株で入院を要する確率(中等症以上となる確率)はデルタ株と比較しかなり低いことが判明してきたため、社会活動を維持するにはインフルエンザウイルス感染症と同様「症状のある人は休む、発症後5日以上、かつ症状改善後48時間以上経過すれば社会復帰可能」という基準を適応するしかないのかと思われます。

あとは、上記基準を適応するとしたら、ハイリスク群を重症化させないため、高齢者、基礎疾患保有者を最優先しワクチン接種3回目を遂行すること、現在ワクチン未接種の方(特に40歳以上)で、接種を希望される方に優先接種することも必要でしょう(私見です)。

 

本日の報道で、政府方針として「濃厚接触者で発症した場合は検査省略可能」「軽症患者は受診せず自宅療養可能」などと言われていましたが、これは検査キット不足を招いてしまった現状をごまかすための施策としか思えません。

少なくとも、海外のデータ、更に国内のデータや、オミクロン株独特の傾向もかなり明確になってきたため、為政者には早期に「大きな方向性」を示していただきたいと思います。

(特定政党の応援など、政治的主張をするつもりは全くありません、私見です)

 

いずれにしても、私がここで不満をたらたら述べても何も変わるわけではありません。

初期診療にあたる診療所としては「迅速な診断、適切な療養指導、投薬、経過観察」を粛々と遂行するのみです。先週から多数の感染症患者さんの診療にあたっており、スタッフ一同疲労が蓄積しておりますが、病気になられた患者さんの大変さを最優先で考え、できるだけお断りすることなく診療を継続させて頂きたいと考えています。頑張ります。